FRP防水のスタイロ断熱勾配工法ってどうですか?
Q:FRP防水のスタイと断熱勾配工法ってどうですか・
A:さて、今回いつもの建材の方ではなくFRP防水の下地についてお話したいと思います。
防水の方で勾配断熱がダメみたいな書き方で多少ショッキングな内容ですが、
そうではなくあくまで施工の問題ということです。
インターネット上であまりにも商業主義で適当な情報が散乱しているので、
まとめてみたいと思います。
私はもともと防水の職人であり、主任施工数は800件以上で、
防水の工事はいまはやっておりません。
現在では素材の販売をしています。
インターネット上の適当な情報よりは多少なりとも技術的見地、素材的な見地から公平にお話ができるかと思います。
ベランダの防水下地について手っ取り早く勾配をとる方法として
1.合板の組み合わせによって勾配をとる方法
2.左官屋さんがモルタルによって勾配をとる方法
3.勾配のついたスタイロフォームによって、勾配を取る方法
のおおまかにわけて3種が想定されます。
で、その3種については1→2→3の順で多く採用されているわけですが、
スタイロフォームによる勾配断熱工法が一時期出まわりました。
現在では、この勾配断熱工法を見るケースは稀になってしまいました。
ではなぜ、この工法がなくなったのか。
ということについてお話をする必要があるかと思います。
もともと防水工事屋さんにおけるクレームの1位は何でしょうか?
防水工事なので
水漏れ???
ではなく、
1位:トップコート不良
2位:フクレ
3位:水勾配
4位:クラック(トップ層)
であります。
まっとうな防水屋さんなら水漏れがあるケースは稀だと思います。
1位はトップコートの不良ですね。
トップコートの不良
トップコートというのは、塗装の1種ですが、
樹脂に硬化剤をまぜ、熱硬化反応で硬化させるものです。
単なる濡れば良いという物ではなく、化学変化させて塗るため、
これが結構厄介であり、幾つもの不良ポイントをクリアしないと即クレームになります。
外気温、下地材、湿度、パラフィンワックスのタイプ、
樹脂の季型、下地の含水率、ゴミの有無、硬化剤の添加量・・・
など多岐に渡ります。
これだけのテーマを頭に叩き込んでおかないとクレームになります。
2位がフクレ。
防水層のフクレ
これは樹脂が硬化する際に下地の水分などでフクレが出るものです。
主に2種類。水分の揮発によるフクレとプライマーの問題によるフクレ
があります。
フクレのメカニズムをきちんとわかっている職人さんならばそうそう起こりえませんが、
これは確かに存在します。
職人といえどもテクニックだけではなく、ナレッジ(知識)も必要なのです。
これはどんな会社、職業でも同じですね。
で、このトップの不良、フクレに次ぐクレームが実は水勾配なのです。
では水勾配の不良がなぜ起こるのでしょうか?
水勾配の不具合
工事分離による不具合。
理由の1つとして考えられるのが、工事分離による不具合です。
これは、工事は通常1つの業者のみで行われると思われがちですが、そうではなく、
防水下地は大工さん、防水は防水屋さん、サッシはサッシ屋さんといったように工事が分離しています。
家づくりというのは、多くの専門業者の集合体ということがいえます。
そのためこのうちどれか一つの不具合が全体に波及するということがあります。
このあたりが家づくりの難しさかと思いますが、
とにかく想定外の不具合があるのです。
ほとんどの場合は、下地、つまりは大工さんに起因します。
防水工事の不具合の5割が下地であるという現実。
防水工事は下地が5割(当社比)ですね。
まず、水勾配というのは、1/100を基本に考えねばなりません。
1/100勾配というのは、建築に携わっている方ならわかりますが、
100mmに対して1mmの勾配。
(現行の住宅保証機構の標準仕様では勾配が倍の1/50が基本になっているようです。)
よけいわからないと思いますが、
ベランダの広さが5mであれば5000mmですので、50mm、つまり5mの幅に対して端から5cm勾配がついていないとまずいわけです。
この勾配は結構キツメです。
勾配をきつめにつける必要があるのは、以下の観点からです。
1.板材のたわみがある。
これは当然ですよね。板がしなる以上、勾配を強めにつけるべきということです。
また躯体が動かないとも限りません。
物が大きくなればなるほど、想定外の大きさの動きがあるというように解釈すべきです。
1mの物が1mm動くのと10mの物が10mm動くのでは比率が同じというわけです。
大きな建造物になればなるほど、自分のものさしも大きくしていく必要があるのです。
2.トップコートの性質
例えば砂利であれば水がたまってしまうことが少ないと思います。
これが例えば板ガラスのような素材だった場合には玉となって残りやすいです。
トップコートの表面にはパラフィンワックスという油のような”ろう分”が浮き出ており、
かつツルツルのため水を弾きやすく、水の玉になってしまいます。
すると表面に大きな粒となって残りやすくなってしまいます。
3.雨水をうけるベランダの性質
雨水に常時さらされるベランダは、カビやモ、コケなどの格好の生息場となってしまいます。
水はけが良ければその分乾燥した状態が続き、衛生上も優れた機能を発揮します。
よくベランダでコケなどが生えているケースが散見されますが、これは掃除がしにくいことこの上ないと思います。
洗濯物を干す場所でコケとか、カビとかが嫌なことは主婦のみなさんならすぐにわかると思います。
というわけでベランダの勾配というのは、1/100以上でつけるべきであり、
それが機能にかなっているといえます。
ではなぜ、勾配をあまり付けないケースが多いのか?
ということを原因追求の一貫として考える必要があろうかと思います。
1.掃き出し窓の高さ
通常ベランダの出入り口には掃き出し窓とよばれる開口の広い窓がついております。
この窓の高さが低いと、ドレン(集水のための口)に向かって勾配がつけられなくなってしまいます。
近年ゲリラ豪雨などでベランダの排水量を超えるケースが多いです。
そのため
本来、この窓の高さというのはある程度高い位置についていないとまずいのですが、
ローコスト住宅に見られる天井高の低下、ベランダへの降り口の高低差解消のため
という意味でベランダ窓の位置が低くなるケースがあります。
ある側面からはよく見え、逆の側面からは悪いケースです。
2.モルタル時の勾配不良
モルタルの勾配については、左官屋さんの目分量で勾配がとられるケースが多いです。
というかほとんどですね。
で、その場合の殆どが規定の勾配がついてないケースが殆んどです。
1/200から300位がおおいでしょうか。
ただ、これは理解の違いといえると思います。
モルタルのようにある程度吸水性がある素材であれば
水がたまりにくく、小さい勾配差でもよいのですが、
最終層は当然トップコートに代表されるツルツルの塗膜面になります。
そのため左官屋さんはモルタルのような感覚で勾配をとってしまうのです。
その昔、施工をやっていた時に、この勾配のままじゃできないということで
やり直しをしてもらい、再施工したこともあります。
しかし旭◎成建材ではないですが、納期が詰まっていたら・・・・
という現場も当然あるかと思います。
そのクレームが多い勾配を簡単につけられるということ、
また断熱性のある素材で断熱性も付与できるということで
出てきたのがスタイロ断熱勾配工法です。
これであれば勾配差について個人差がなくなり、品質も安定します。
少なくとも水たまりのクレームがでることはすくないでしょう。
これはあらかじめ勾配のついたスタイロを敷きこむだけで、勾配が取れるというスグレモノであります。
下がフラットでも勾配が取れるため”理論上は”とても優れています。
ただ、これも施工上の問題が大きいかと思いますが、いくつか問題点をはらんでいます。
1.スタイロが溶ける。
通常の防水の作り方としてまずシーラー・プライマーを塗布し、
ガラスマットを貼りこんで、樹脂を塗布する。
というようにFRP防水層は作られますが、このシーラー・プライマーにおいては粘性が低く、合板の隙間などから下に向かって垂れてくるケースがとても多いです。
昔下が和室で、ベランダのシーラーがタレて怒られたことがあります。
スタイロフォームはアルコール系などの溶剤には溶けませんが、
シーラーにある酢酸エチルやアセトンといった強溶剤で簡単に溶けてしまう性質を持ちます。
スタイロ断熱勾配工法では、この染み込みによって下地が相当数溶けるケースが有ります。
溶けるとどうなるかというと、大きな空洞ができます。
2.下地が脆弱になる。
スタイロフォームの比重は0.1以下であり、非常に軽量です。
内部に独立型の気泡を多く含み、それによって高い断熱性を持たせる事ができる素材ですが、
軽い分点荷重に弱く容易に凹むことがあります。
この脆弱性ゆえに、本来構造としての力を受ける想定をしていないわずか3ミリ足らずのFRPに力が加わり、
表層のトップコートなどにクラックが入るケースがあります。
こういった点から敬遠されるケースがあります。
一応6ミリのケイカル板を敷きこむようになっていますが、スタイロの上に6ミリのケイカル板では
かかとの点荷重によって凹みます。
なぜ、わかるかと申しますと、工場でスタイロの両面に6ミリのケイカル板を貼っているからにほかなりません。
また室外機そのた物置など大型の荷物をおけば、長期に渡って凹みがでることが想定されます。
もちろん知見がある施工店さんならば大丈夫だとは思いますが、要は取り扱いが若干難しいために
施工不良が起きやすいということなのです。
というわけで
結論
スタイロフォームが防水下地の勾配材として推奨されないのは、
安定した知識と品質をもつところであれば大丈夫だが、すべてがそのかぎりではないので、難しい。
ということになります。
※追記:現在大手ハウスメーカーを中心に施工の標準作業化、マニュアル化によってこのスタイロ勾配断熱工法が見直されてきているようです。
大工さんの技術により勾配がかわってしまうような不具合が起きにくくなり、防水でもクレームの3位に入るような水勾配のクレームがおきなくなるというメリットは大きいようです。
それにより工事のシステム化でメリットがでてきているようです。